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 新宿の有名なホストクラブの経営者が、売り上げの一部を従業員の口座などに入金して脱税していたと告発
されました。一晩で数百万円もつぎ込む女性がマスコミで取り上げられたりしていますから、ホストクラブの
売り上げが巨額になることは容易に想像できます。それを誰が見ても分かるような単純な方法で売り上げ除外
していたのですから、脱税の常識(?)すら知らなかったのでしょうか。 年収が1億円を超える「勝ち組ホスト」も
いますが、高給なだけにドンブリ勘定な生活を送る人が多いようです。そして、そこに付け入る人がいれば、
簡単に誤魔化せてしまうのかもしれません。
今回は、華やかなホスト業界で起こった、店長による極めて粗雑な横領事件です。
それすら見抜けなかったことが、この業界の体質を物語っているようです。

 連載 −マルサの事件簿J

水商売特有のドンブリ勘定が横領の温床に

■不良ホストが欠勤
「店長、ゴローがまた休むって電話です。どうします?」
開店前のミーティングをしていた店長の田中は、ボーイ長の報告に内心ほくそ笑みつつ、渋面を作った。
「ばかやろう。すぐに俺に電話を回せ」 「もう、切れています」 「こっちから、掛けろ!」 「出ません!」
こんなやり取りは、日常茶飯事で慣れっこになっている。 田中はホストクラブ業界でも大手の一角を占める
「クラブ野薔薇」の新宿店長になって5年がたつ。野薔薇はマスコミにもたびたび登場する話題のチェーンで、
新宿のほかに六本木、池袋、渋谷、名古屋、札幌、大阪、福岡に店を持ち、全国的な知名度を誇っている。
ゴローは新宿のナンバーワンホストで、六本木のナンバーワンの秀(シュウ)、渋谷のナンバーワンの
翔(ショウ)と合わせて、「ゴシュウショウ様」と呼ばれ、野薔薇だけでなく、ホスト業界のスターとして
もてはやされている。 ところが、このゴローの素行が悪く、遅刻早退は当たり前、今日のように欠勤の電話を
入れてくるのは、珍しい方なのだ。おかしいと思ってボーイ長を問い詰めると、「馴染みの客と連絡が取れず、
休むと伝えられなかったので、もし来店したら店に入れずに追い返してほしい」と言っていたというのだ。
自分の客を店内のライバルに取られたくないからなのだが、店にとっては営業妨害に他ならない。

■会社の経理はドンブリ勘定
田中が内心で喜んだのには、理由がある。ホストは入れ替わりが激しく、新人の場合は週給、
半年勤めてやっと月給制になる。2、3日で辞めた新人の場合には、毎週月曜日の給料日に取りに
来ないことも多く、本社から支給された給料が宙に浮くこともたびたびある。
本社事務所に立ち寄って給料を預かってくる田中は、余った分を何度も着服していたのだ。
ゴローの場合は月給制だが、給料は出勤手当てと歩合の2階建てになっている。
出勤日数を本社に報告するのは田中の仕事なので、田中が出勤日数をごまかせば、その分、田中の
着服額も膨らむという構図だ。田中にとってはゴローが欠勤すればするほど自分の懐具合が暖かく
なるのだから、ほくそ笑んだのも無理はない。 もともと高額な料金と給料が常識のため、金銭感覚が
麻痺しやすいのか、誰も細かい金額をチェックする気などなかったようだ。
実際、ゴロー本人も野薔薇の本社も、こんなに単純な店長の横領を見抜くことができなかった。
ところが、マルサの高木は違った。写真週刊誌などで「ゴシュウショウ様、月給600万円!」などという
見出しを見るたびに、「彼らは、きちんと所得税申告をしているのだろうか」と、疑問に思っていた
のである。特に、馴染み客がプレゼントする高級腕時計や高級外車、高級ブランドスーツなどは、
「社会通念上相当な範囲内のもの」とはいえない可能性が高く、所得税の課税対象になり得る。
給料とプレゼントを合わせれば、年収は軽く1億円を超えるだろう。

■従業員の脱税から不正が発覚
高木は、ゴローの内偵から始めることにした。過去の申告を洗うと、プレゼントの申告は一件もなく、
溜まり(脱税額)の総額は1億円を超えることは確実と思われた。 半年にわたりゴローを内偵した結果、
週に1日は欠勤すること、高額なプレゼントをする馴染み客が5人いること、その5人の買物歴を詳細に
調べると、ゴローへのプレゼント総額はたった半年で2千万円を超えることなどが分かった。
高木は、ここを突破口にゴローの所得を丸裸にしていったのである。 ゴローが住む高級マンションを訪ねた
高木の手には、野薔薇の本社で手に入れた給料明細が握られていた。それを基に追及し始めた高木に
対して、ゴローは意外なことを口にした。
「俺、こんなに貰ってないよ。去年の12月は777万円のスリーセブンだったからよく覚えている。
店から800万円なんて貰ってない」 長年マルサで調査をしていると、相手が嘘をついているかどうかは
雰囲気で分かる。ゴローによると、毎月の給料明細はすぐに捨ててしまうので手元にないが、給料袋の
中に現金と一緒に店長の田中が手書きで書いた明細書が入っているという。
この話から、高木はピンときた。「田中が怪しい」と。 高木が内偵中に確認したゴローの欠勤日数と
野薔薇本社に田中が報告した出勤日数を比べると、毎月3〜4日の差があり、それを基に計算すれば
毎月20万円前後もどこかに消えていることが分かった。消える先は、田中に違いない。
その上、給料をごまかしているのはゴローの分だけではないだろう。
しかし、ゴローが「マルサの事情聴取を受けているので出勤できない」と店に電話を入れたため、身の危険
を察知した田中は翌日から行方をくらませてしまった。後に残ったのは、年間数百万円に及ぶ田中の
横領疑惑と野薔薇の社長のため息だった。
                                             出典『企業内マルサの事件簿』より
              

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