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【連載】マルサの事件簿 1|2|3|4|5|6|7|8|9|10|11|
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「売上除外」は、最もシンプルな脱税方法の一つですが、シンプルなだけに発覚もしにくいという特徴があります。かかわっている人数が少数で、完全に口裏を合わされたら、追及することは極めて困難です。しかし、売上除外をしたところで、
実際の取引は行われているわけですから、その証拠は必ずどこかにあります。調査官は、推理小説に登場する名探偵顔負けの
推理力を働かせて、証拠を探し出すことに全力を挙げているのです。小さな矛盾点から巨額の脱税をあぶり出すことは、
日常茶飯事。調査官ににらまれたら、逃げることはできません。
連載 −マルサの事件簿E
最新の営業支援システムが動かぬ証拠
■急激な利益拡大が脱税の入り口
コンピューターソフトを開発するベンチャー企業・ソフィアシステムは、新たに開発した営業支援
ソフトが大ヒットして、年率50%という高度成長のさなかにあった。もともと少数精鋭の開発型企業
だけに、コストの大半を占める人件費も、売上拡大に合わせて大きく増えていくことはない。
社長の宮原にとっては、毎年数億円の法人税を納税することが、だんだんと無駄に
思えてきたのである。今期は、従業員に年収に匹敵する期末手当を支給してマスコミの注目を
浴びたが、それでも会社の金庫には膨大な利益が残ってしまった。経理担当役員の寺田と
行きつけのクラブで飲みながら、宮原は「何とかならんか」とため息をついた。
「今年もまた3億円だ。何で、俺たちが稼いだ金を、みすみす国にむしり取られなければ
ならないんだ!」 いつもの宮原の愚痴を聞いていた寺田は、「何とかならんこともないが、
やるにしてもこれから先の話だな」と応じた。創業当時からの腹心だけに、言葉使いも2人だけ
の時には対等になる。どうやら、寺田は愚痴を何度も聞かされているうちに、脱税の研究を
一人で始めていたらしい。「なぁ、宮ちゃん、ここのところ毎年30社以上のペースで客が
増えているだろう。その中から、4〜5社ずつ、売上除外をするのさ」 「何だ、売上除外って?」
経理に疎い宮原に、寺田は細かく説明をし始めた。製品の出荷記録から帳簿、伝票に
至るまで、正規の記録からは一切排除すること、専用の口座を作って、顧客にはそこに
振り込んでもらうこと、などなど。「シンプルだが、それだけにバレにくい」と寺田は
自信深げだ。「売上除外する客は、宮ちゃんがトップセールスしてきたところだけに
すればいい。請求書は俺が発行すれば、社員にも分からんよ」
■パソコン操作を注視する調査官
宮原は、さっそく寺田の作戦に乗って、トップセールスに精を出し始めた。
社員に知られないように、電話は社長室にこもってかけるか、わざわざ会社の外に出て
携帯電話を使うという徹底ぶり。一方、寺田は製品出荷から請求書の発行まで、まったく
別ルートで動くように、専用のコンピューターシステムまで作った。こうして宮原たちは
毎年1億円前後の売り上げを、帳簿の上から消すことに成功したのである。
脱税を始めて5年たったある日、税務調査の事前連絡があった。宮原たちは社内文書の
再確認はもちろん、売上除外の相手先にも電話をして、税務署の反面調査が入って
いないかそれとなく聞き出し、安心しきって調査当日を迎えたのである。
税務調査に訪れたのは、鈴木という調査官1人だけだった。
しかも、型どおりに「この1年間の元帳と伝票、請求書の控え、領収書、銀行の
残高証明を見せていただけますか」と、ぼそぼそと言う。もっと厳しい調査を予想していた
宮原は、拍子抜けして寺田に「何でも言うことを聞いてくれ」と申し送った。
寺田から関係書類を受け取った鈴木は、宮原のデスクの前にある応接用テーブルに
陣取り、ぱらぱらと帳簿をめくり始めた。
宮原のデスクの上にある電話が鳴ったのは、ちょうどその時だ。
「ちょっと失礼します」と言って、宮原は応接テーブルからデスクに戻り、
パソコンの画面にタッチした。電話をかけてきた相手の情報が、自動的に画面に
表示されるのである。自分の会社で作っているソフトだから、操作も手馴れたものだ。
ところが、その宮原の指の動きを、鈴木はじっと注視していたのである…。
■通話記録から脱税が発覚
宮原が受話器を置くと、鈴木は何気ない調子で、こう話し掛けてきた。「さすがに、今をときめく
IT企業ですね。パソコンで電話ができるんですか」。 宮原は得意げに「そうですよ。
うちの製品は業界最高のパフォーマンスと言われているんですよ。いつ、誰が、どこに
掛けたのか、瞬時に分かりますし、携帯電話の通話記録も残せます。このソフトのお陰で、
うちは税金も払えるんですよ。ワッハッハ」と笑った。すると、鈴木は冷静にこう尋ねた。
「ということは、御社の社員が、いつ、どこに掛けたのかも分かるわけですね。その通話記録を
見せていただけますか。確か、瞬時に分かるとおっしゃっていましたね。通話記録と、請求書の
あて先を比べてみたいので」鈴木の言葉を聞いた瞬間、宮原の顔が青ざめた。
「いいですよ」と言いながら、宮原の背中には冷たい汗が流れていた。1週間後、再び訪ねて
きた鈴木は言った。「どうも4、5社ほど、頻繁に通話をしているのに請求書が1通も発行されて
いない会社がありますね。しかも、電話はすべて宮原社長が掛けていることになっている。
この会社とのお取引は、本当に全くないんですか?」 すべてお見通しという鈴木の視線に
耐えられず、宮原は売上除外していることを自供し始めた。過去5年にさかのぼると、追徴金が
いったいいくらになるのか。その数字を考えるだけで、気が遠くなりそうだった。
出典『企業内マルサの事件簿』より

潟rジコム 「不正調査とその防止対策」
