TOP > マルサの事件簿

【連載】マルサの事件簿 1|2|3|4|5|6|7|8|9|10|11|12|

   マルサは詳細な調査を行い、さまざまな資料を集めます。そして、膨大な証拠の中から小さな矛盾点を見抜き、それを積み重ねて
  いくことで、大きな事件を解決しているのです。実は会社の脱税だけでなく、証拠の中には社員の不正の種が潜んでいることがあり
  ます。会社が長年見逃していても、マルサの厳しい目はごまかせません。マルサが調査に来ると分かった時、妙にソワソワし始める
  社員がいたとしたら、それとなく社内調査をしてみたらいいかもしれません。実際の不正はなくても、管理の「穴」が見つかることが
  多いものです。


 連載 −マルサの事件簿C

意に沿わない転勤が不正のきっかけに

■想定外の転勤事例
 本社から支社に転勤になった社員が「飛ばされた」と思い込み、モチベーションを下げると
同時に、不正に手を染めることはよくあるケースだ。東京・文京区に本社がある大手OA機器
商社・エクセル販売で発覚した事件も、そんな典型の一つと言っていい。
 東京生まれ、東京育ち、東京に本社を置く大手企業に入社した木村にとって、東京で仕事
をすることこそがベストな人生だった。営業部門でトップクラスの成績を挙げてきただけに、
「本流」である東京本社から外に出されることなど、まったく念頭になかったのである。
 入社20年目、第3営業部長を任されていた木村が人事担当役員の鈴木から飲みに
誘われた時、「いよいよ俺が花形の第1営業部長か」と内心ホクホク顔になったのも
無理はない。営業先から小躍りするような足取りで鈴木の待つ店に行くと、鈴木の顔色が
何となく暗い。ビールを数杯空けた後、鈴木はおもむろにこう切り出した。
 「木村君、君の営業力は社長も高く買っている。今週の役員会でも木村君の話が出た時、
木村君はうちの将来を担う人材だということに、誰も異論がなかった。そこで、だ。今、会社の
最大の問題は大阪支社の業績不振にあることは、君も知っているとおりだ。その大阪支社を、
ぜひとも君の実力で立て直してほしい。それが役員会の総意なんだ。支社長の田中専務も、
木村君が来てくれたら百人力だと太鼓判を押している。支社長代理として、力を発揮してくれ」

■支社は治外法権?
 木村は鈴木の話を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。「田中専務は大阪支社長だと
いっても肩書きだけで、東京にいっぱなしじゃないか。そんな状態で、社員がまともに働く
わけがないだろう。つまり大阪支社なんて、それだけの価値しかないってことさ。
その大阪に、何で俺が行かなきゃならないのか!」
 鈴木にそう怒鳴ってやりたかったが、田中専務も鈴木取締役も、社長のお気に入りだ。
逆らったりすれば大阪どころか、もっと辺鄙な所に飛ばされかねない。木村は苦いビール
を、本当に苦い顔で飲み干すしかなかった。 それから1カ月後、木村が大阪に赴任すると、
案の定、支社の空気は淀んでいた。本社からの命令など、無視するのが当然という雰囲気
がまん延していた。 そんな木村の気晴らし相手になったのは、大学時代のサークル仲間
だった林だ。林はエクセル販売のメーンバンク・東都銀行の梅田支店長をしていた。
 東都銀行の梅田支店には、エクセル販売の販売代金の大半が入金され、毎年30億円
前後の入出金がある。大阪のキタやミナミの高級店で林と飲み明かすうちに、2人は妙案
を思いついた。誘ったのは、木村の不満を聞いていた林である。
 「なぁ、木村。誰にも迷惑を掛けずに、金儲けをする方法があるんだけど、やって
みないか。毎月、2億〜3億円の入金がうちの支店にあるだろう。それを俺が作るお前の
会社名義の新しい口座に入れて、入金があるたびにお前が作った外貨定期の口座に
移すんだよ。1、2カ月したら解約して、会社の本当の口座に戻せばいい。お前は定期預金
の利子が稼げるし、俺は大口外貨預金の口座を毎月作ることができる。会社にも迷惑は
掛けない。つまり、誰も損をしない仕組みだよ」
 エクセル販売の大阪支社の業績が悪いのは、東京本社からの管理が甘いことが
大きな理由だ。メーンバンクの支店長と実質的な支社長でもある木村が協力すれば、
支社の金を自由に動かすことなど簡単だろう。木村の不満も手伝って、話はとんとん拍子
に具体化してしまった。
 ドル建て外貨定期預金の利子は、3〜4%前後。為替リスクはあるが、木村と林はこの
方法で年間数百万円を稼ぎ出し、木村が赴任してからの3年間で総額2千万もの収入を
得ていたのである。

■マルサの検査で暗転
 2人の人生が狂ったのは、エクセル販売の東京本社にマルサの検査が入ったことが
きっかけだった。大阪支社に現況調査に訪れた査察官の石渡は、東都銀行梅田支店に
エクセル販売の口座が2つあり、それぞれに入出金のタイミングが1〜2カ月ずれている
ことに気付いたのである。仮に2つの口座をAとBとすると、Aに取引先のC社から1千万円
の入金があると、すぐに全額が引き出され、1カ月後に同じC社名義でBに1千万円の入金
があるという具合だ。取引先に反面調査を掛けた石渡は、木村にこう質問をぶつけた。
 「2つの口座に同じ金額が同じ振込み人名義で1、2カ月ずれて入金されていますが、
これは何かの間違いですか? 取引先にも確認していますから、2重払いは
あり得ませんよ」
  静かに見据える石渡の視線に耐え切れず、木村は林と一緒に作り上げた巧妙な
からくりを白状した。会社の資金(この場合は金利だが)を着服した木村とシナリオを書いた
林は、共に諭旨免職。書類送検された2人にとっては、改悛の情を顕著に示したことなど
から起訴猶予になったことだけが、唯一の救いだった。


                                             出典『企業内マルサの事件簿』より
             

潟rジコムに関する詳細はこちらをご覧下さい

  潟rジコム 「不正調査とその防止対策」


【連載】マルサの事件簿

                        ・・・ The end ・・・

▲ ページの先頭へ