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【連載】マルサの事件簿 1|2|3|4|5|6|7|8|9|10|11|
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マルサが調査をしている過程で、本命の事件とは別の事件に遭遇することは、よくあることです。関係資料をすべて押収して徹底的に分析しますから、隠されていた不正まであぶり出されてくるのです。マルサでは、別件が発覚してくることを「筋が延びる」といい
小さな脱税が大きな不正を発見するきっかけになることも珍しくありません。不思議なもので、会社が不正を犯していると、そこで働く
社員まで不正を犯しているケースが少なくないのです。社員が不正に慣れてしまい自分自身の倫理観までマヒしてしまうからでしょうか。
連載 −マルサの事件簿B
会社の不正体質が社員に感染
■昇格と引き換えに不正工作
東京・港区に本社を置く中堅の土木会社、未来興業の経理部長、柳沢は社長の水谷から
内密の相談があると社長室に呼ばれた。この4月に部長に昇格したばかりの柳沢は
そこまで社長が信頼してくれているのかと、内心の喜びを隠せないままに社長室のドアを
ノックした。5年後、それが自分を破滅に追い込む悪魔のささやきだったとも知らずに…。
水谷は柳沢を自分のデスクの横に呼び寄せ、脇にある椅子を勧めた。そして、柳沢の肩を
抱くようにして、こうささやいたのである。「明日、港建設に集金に行ってほしい。
1億2000万円の手形を経理部でもらった後、森田専務の部屋を訪ねて、この封筒を
渡してくれ。中身は、分かるな。240万円入っている。発注額の2%を発注担当の
森田さんにお礼するのが、決まりなんだよ」
つまり、バックリベートである。柳沢は業界の風習として聞いてはいたが、まさか自分が
当事者として、その現場を任されるとは思ってもみなかった。「他言無用」と念を押す水谷の
冷たい視線に、背筋が凍りつく思いだった。
■誘われるままに「夜の世界」に
翌日、柳沢は水谷から言われたとおり森田の部屋を訪ねた。かばんの中から札束が
入っている封筒を取り出し「いつもお世話になっております」と頭を下げながら、両手で
捧げるようにして森田に手渡した。森田は無造作に受け取ると、「いつもすまんな」と
言いながら、上着の内ポケットにねじ込んだ。手馴れた手つきからは、ほかの下請けからも
多額の賄賂を受け取っていることがうかがわれた。
ひとしきり世間話をして柳沢が席を立とうとすると、「今日、これからどうかね」と
森田が誘ってきた。森田のなじみの店に行こうというのである。この場合、飲食費は
一切合切未来興業が持つのは言うまでもない。森田はそれを承知で誘っているのだ。
そういえば、森田には複数の愛人がいるという噂があることを柳沢は思い出した。
「たくさんの愛人を囲う原資がこれだったのか」と、柳沢は妙な納得の仕方で、森田の
誘いに乗ったのである。
タクシーでホテルの寿司バーに連れて行かれると、そこにはすでに赤坂の「とまり木」
のママと若いホステスが待っていた。このママが森田の愛人であることは、なれなれしい
態度ですぐに分かった。若いホステスの方はレナと名乗り、柳沢が今夜の金主であることを
察知すると、盛んに体をすり寄せてきた。深く開いた胸元に、つい柳沢の視線が泳ぐと
柳沢の太ももを真っ赤な爪でつんつんとつつきながら、柳沢の耳元に口を寄せ
「見ちゃだめ」とささやきながら息を吹きかけてくる。お堅い経理の仕事しか知らない柳沢を
篭絡することなど、赤坂の女にとっては造作もない。
そんなことが何回か繰り返され、いつのまにか柳沢はレナを愛人にしてしまっていた。
もっとも、そう思っていたのは柳沢だけで、レナにとっては大勢の男の中の1人に過ぎな
かったのだが。
■会社の不正が自分の不正に拡大
柳沢がレナにつぎ込んだ金の出所は、未来興業の経理部だった。赤坂での接待を
強要されていると水谷に告げると、水谷は「森田さんの機嫌を絶対に損ねるなよ。
経費はすべて君に任せる。いつものようにしておけばいいさ」と柳沢に一任したのである。
森田へのリベートは外注費の架空計上で捻出していたが、今度はそこに接待費が乗るよう
になった。クラブの飲み代など、上限があってないようなものだから、いくらでも水増しできる。
もともと “裏”の話なので、水谷には「これだけ掛かりました」と報告するだけで済む。
その水増しの中に、柳沢はレナにつぎ込む金を紛れ込ませたのである。
そんなことが5年も続いたある日、未来興業はマルサの急襲を受けた。売り上げが伸びて
いるのに粗利が低調なことを不審に思ったマルサが、外注費と人件費の精査に入ったのである。
査察官の鈴木は、すぐに外注費の架空計上を見破ったが、柳沢が青くなったのはリベートと
架空外注費の間に大きな開きがあることを指摘された時だ。リベートは受注額の2%だから
金額は特定できるが、それとは別に毎月80万円前後の金が決まって捻出されていた
のである。使い道を追求された柳沢はしどろもどりになり、その姿を見た鈴木はぴんときた。
「こいつは、やっている」と。
会社の命令で不正を働く担当者が、個人的な不正に手を染めてしまうことは、よくある
ケースだ。「会社がやっているのだから、自分がやってもいいだろう」というわけである。
柳沢は「接待費だ」とその場は言い逃れたが、1週間後に詳細な裏取りとの乖離を指摘
されると、万事休した。個人的な着服が発覚した柳沢を会社がかばうはずもなく、懲戒解雇
の上、民事で損害賠償まで請求されてしまった。その上、愛人がいたことが分かり、家庭は
崩壊。柳沢は5年前に水谷に呼ばれたあの日のことを、恨めしく思い出していた。
出典『企業内マルサの事件簿』より
潟rジコム 「不正調査とその防止対策」
